No.188
忘却ではなく勘違い
奏の音楽堂で、椅子に座り、ぼんやりと考え事をしていた劇作家。
そんな彼を、表現者たちの案内人の一声が現実に引き戻した。
「劇作家、君が次の再訪する精霊として決定したそうだ。
いいかい、くれぐれも日程を忘れるんじゃないぞ」
「おや。お知らせありがとうございます団長。
ふふふ、子どもたちから好かれるというのも、
なかなかどうして、悪くないものですね」
ニコニコしながら劇作家は席から立つ。
そうと決まったら、持って行く物の準備をしておかねばならない。
リュックに詰めておく物は、何があっただろうか?
「あ、忘れ物の類には気を付けなよ、劇作家。
他所でもやったのいるっぽいからさ、君なら殊更しっかり釘刺さないと」
「はいはい、気を付けますよ」
作業場から顔を出した舞台美術家が、チクリと一言刺してきた。
忘れっぽいという、自分の性質自体には自覚がある。
自分以外の精霊もした失敗であるのならば、自分が同じ事をしでかしたら、
何を言われるかについても、ある程度は察しがついてしまう。
「しかしまあ……
予想外だったのは、ラストが劇作家だったってとこだなあ」
「ホントホント。踊り手が行くのめっちゃ渋ってたのにね」
楽器の調整が終わったのか、音楽家が会話に挟まってきた。
その会話に、ふと疑問が浮かび上がる。
「え? 私が、この季節最後の初再訪?
やだなあ、何言ってるんですか。
この中じゃあ、私が最初に彼等のホームに行ったし、
なんなら昨年には、二度目の機会もあったばかりですよ?」
思い出されるのは、かつての音楽の日々。
何も問題なく、とはいかなかったけれども、楽しかった、あの日々の記憶。
自分の中のそれらが、噓や偽りなんかであるはずなど……
「あの……劇作家さん……
大、変……申し上げ、にくい、の、です、が……」
「はい?」
忘れるどころか記憶の改竄が起きていた? いやまさか。
そんな不安に襲われたところで、とても小さな、凄く申し訳なさそうな、
踊り手の声が、かろうじて、劇作家の耳に拾われた。
「かつての、音楽の日々の件は、あくまで……
あなたの『奏の音楽堂の案内人』としてのお役目であって……
本来の『忘れっぽい劇作家』としての再訪とは……
扱われて、いない、ん、です……」
「えっ」
言われてみれば、その通り。
自分があの日々に果たした役割は、個人とはまた、違う顔。
公私で言うなら公の方。
つまり、季節の精霊としての再訪は、していなかったわけで。
「……あ」
そういう捉え方をするのであれば、
確かに、まだ『個人では』会いに行っていなかった。
初めてというカウントにされるのも、もっともな話であった。
「あー……!」
「あぁ……」
理解が、できてしまった。
頭を抱える劇作家。
やっぱりそうだったか、と項垂れる踊り手。
「……団長が無言で胃薬飲んでる」
「踊り手のほほえましいお土産話聞いた後にコレだからだとは思うよ」
無事に、やり遂げなくては。
劇作家は、自分なりに決意を固めた。
蓋を閉める
奏の音楽堂で、椅子に座り、ぼんやりと考え事をしていた劇作家。
そんな彼を、表現者たちの案内人の一声が現実に引き戻した。
「劇作家、君が次の再訪する精霊として決定したそうだ。
いいかい、くれぐれも日程を忘れるんじゃないぞ」
「おや。お知らせありがとうございます団長。
ふふふ、子どもたちから好かれるというのも、
なかなかどうして、悪くないものですね」
ニコニコしながら劇作家は席から立つ。
そうと決まったら、持って行く物の準備をしておかねばならない。
リュックに詰めておく物は、何があっただろうか?
「あ、忘れ物の類には気を付けなよ、劇作家。
他所でもやったのいるっぽいからさ、君なら殊更しっかり釘刺さないと」
「はいはい、気を付けますよ」
作業場から顔を出した舞台美術家が、チクリと一言刺してきた。
忘れっぽいという、自分の性質自体には自覚がある。
自分以外の精霊もした失敗であるのならば、自分が同じ事をしでかしたら、
何を言われるかについても、ある程度は察しがついてしまう。
「しかしまあ……
予想外だったのは、ラストが劇作家だったってとこだなあ」
「ホントホント。踊り手が行くのめっちゃ渋ってたのにね」
楽器の調整が終わったのか、音楽家が会話に挟まってきた。
その会話に、ふと疑問が浮かび上がる。
「え? 私が、この季節最後の初再訪?
やだなあ、何言ってるんですか。
この中じゃあ、私が最初に彼等のホームに行ったし、
なんなら昨年には、二度目の機会もあったばかりですよ?」
思い出されるのは、かつての音楽の日々。
何も問題なく、とはいかなかったけれども、楽しかった、あの日々の記憶。
自分の中のそれらが、噓や偽りなんかであるはずなど……
「あの……劇作家さん……
大、変……申し上げ、にくい、の、です、が……」
「はい?」
忘れるどころか記憶の改竄が起きていた? いやまさか。
そんな不安に襲われたところで、とても小さな、凄く申し訳なさそうな、
踊り手の声が、かろうじて、劇作家の耳に拾われた。
「かつての、音楽の日々の件は、あくまで……
あなたの『奏の音楽堂の案内人』としてのお役目であって……
本来の『忘れっぽい劇作家』としての再訪とは……
扱われて、いない、ん、です……」
「えっ」
言われてみれば、その通り。
自分があの日々に果たした役割は、個人とはまた、違う顔。
公私で言うなら公の方。
つまり、季節の精霊としての再訪は、していなかったわけで。
「……あ」
そういう捉え方をするのであれば、
確かに、まだ『個人では』会いに行っていなかった。
初めてというカウントにされるのも、もっともな話であった。
「あー……!」
「あぁ……」
理解が、できてしまった。
頭を抱える劇作家。
やっぱりそうだったか、と項垂れる踊り手。
「……団長が無言で胃薬飲んでる」
「踊り手のほほえましいお土産話聞いた後にコレだからだとは思うよ」
無事に、やり遂げなくては。
劇作家は、自分なりに決意を固めた。
蓋を閉める





